20120615 山形の散歩道:ユキグニコルリクワガタなど
2012年 06月 19日
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Nature Diary 7(30):#455
<ブナの森>
中学生の頃、丹沢山塊の檜洞丸という山で、立派なブナの木を見て感激した。その後、カミキリムシを追ってブナの森をしばしば散策するようになると、そこに棲む多様な生物の存在に驚き、ブナの森が見せる四季の美しさに胸が震えたものだ。ブナの林には特別な思いがある。今回は山形のブナの森を歩いた。
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今週末は山形市に出張した。車で夜移動して時間をつくり、月山を訪れてみた。
月山は冬の豪雪の影響で、例年に比べて雪がかなり多く残っている。中腹にある湿地にはミズバショウの花が満開で、古い個体ながらも春の蝶であるギフチョウやコツバメまで飛んでいたのには驚いた。
► 月山
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Mt. Gassan
Canon 7D, Sigma 24mm, ISO400 (2012-June-15, Yamagata-ken)
ユキグニコルリクワガタ; Platycerus albisomni albisomni
日本のコルリクワガタは現在では4種に細分類されている(コルリクワガタ、ユキグニコルリクワガタ、トウカイコルリクワガタ、ニシコルリクワガタ)。なかでもユキグニコルリクワガタはここ月山を基産地として記載され、東北地方を中心に分布(青森県以外)することが知られる。この美しい甲虫は、ブナの新芽に好んで集まる性質があるので、残雪の周りのブナの幼木を見回ってみた。
► ブナの幼木
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Young tree of the Japanese beech
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
残雪が残る斜面はとても歩きにくくて閉口するが、やっとユキグニコルリが集まる幼木を見つけることができた。ユキグニコルリの♂は光沢のある深い青色でとても美しい。
► ブナの新芽に来たユキグニコルリクワガタ♂
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A male of Platycerus albisomni resting on the spout of Japanese beech
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
► ユキグニコルリクワガタ♂
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Platycerus albisomni albisomni
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
メスは褐色で、オスに比べると体も小さい。
► ユキグニコルリクワガタ♀
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Platycerus albisomni albisomni
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
► ユキグニコルリクワガタ交尾
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Platycerus albisomni albisomni
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
ネクイハムシ; Plateumaris
永幡さんによれば、月山の中腹に散在する沼や湿地には、ここを基産地として記載されたシラハタネクイハムシをはじめスゲハムシ、ヒラタネクイハムシの3種が棲息しているということだ。ネクイハムシの仲間は形態的にとても良く似ている。とくにシラハタネクイハムシとスゲハムシは触角の第2節、3節の長さの比で区別できるようだが、野外での同定はすこぶる難しい。
3者の同定には自信が無いので、間違っていたら是非とも指摘してほしい。
► シラハタネクイハムシと残雪の山
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Plateumaris shirahatai
Canon 7D, Sigma 24mm, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
シラハタは青色から茶色まで色彩は変化に富む。
(注:下の写真の上はスゲハムシです。永幡さん有難うございます)
► シラハタネクイハムシ
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Plateumaris shirahatai
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
褐色型のシラハタの交尾。
► シラハタネクイハムシ
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Plateumaris shirahatai
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
湿地に咲くコウリンカの黄色い花を訪れたスゲハムシ。
この個体は光沢のある鮮やかな赤色でとても綺麗だ。
► スゲハムシ
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Plateumaris sericea
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
► ミズバショウの葉上で交尾するスゲハムシ
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Plateumaris sericea
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
もう一種はヒラタネクイハムシだが、それらしい個体を撮影していた。
► ヒラタネクイハムシ?
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Donacia (Donaciomima) splendens splendens
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
オオハンミョウモドキ; Elaphrus japonicus
オオハンミョウモドキは湿地をゆっくりと歩くと足もとから這い出す。
鞘翅に並ぶ青い紋がなかなか渋くて美しい甲虫だが、動きが意外に素早くて落ち着きがない。
ゆっくりと撮影させてもらえないのが難点だ。
► オオハンミョウモドキ
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Elaphrus japonicus
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
アマゴイルリトンボ; Platycnemis echigoana
アマゴイルリトンボはモノサシトンボの仲間だが、オスの体は青色を呈する。今年は出現が遅れているみたいで、個体数は非常に少なかった。青色が乏しい羽化後間もない個体を一応撮影できた。
► アマゴイルリトンボ
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Platycnemis echigoana
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
§ Afterword §
今回はある学会の山形県支部会学術集会にお招きいただきました。古い友人である県立病院のT先生や事務局のWさんなど色々な方にお世話になりました。感謝します。
また、山形在住の昆虫写真家でブナの森研究家の永幡嘉之さん(世界のブナの森)ともお会いして、食事を共にしながら(飲みながら)ゆっくりと話すことができました。彼のフィールドとする山形の昆虫や極東ロシアなどの話に興味津々でした。永幡さんも甲虫とくにカミキリムシにも少なからず興味があるようで、しばらくぶりでチョウばかりではなく、甲虫談議にも花を咲かすことが出来てとても楽しかったな。永幡氏のこれからの活躍に陰ながら応援したいと思う。
次回の Nature Diary は、マニアの間で朝日型と呼ばれているヒメシジミの画像をアップすることにする。
以上、 by 虫林花山
Nature Diary 7(30):#455
<ブナの森>
中学生の頃、丹沢山塊の檜洞丸という山で、立派なブナの木を見て感激した。その後、カミキリムシを追ってブナの森をしばしば散策するようになると、そこに棲む多様な生物の存在に驚き、ブナの森が見せる四季の美しさに胸が震えたものだ。ブナの林には特別な思いがある。今回は山形のブナの森を歩いた。
今週末は山形市に出張した。車で夜移動して時間をつくり、月山を訪れてみた。
月山は冬の豪雪の影響で、例年に比べて雪がかなり多く残っている。中腹にある湿地にはミズバショウの花が満開で、古い個体ながらも春の蝶であるギフチョウやコツバメまで飛んでいたのには驚いた。
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Mt. Gassan
Canon 7D, Sigma 24mm, ISO400 (2012-June-15, Yamagata-ken)
ユキグニコルリクワガタ; Platycerus albisomni albisomni
日本のコルリクワガタは現在では4種に細分類されている(コルリクワガタ、ユキグニコルリクワガタ、トウカイコルリクワガタ、ニシコルリクワガタ)。なかでもユキグニコルリクワガタはここ月山を基産地として記載され、東北地方を中心に分布(青森県以外)することが知られる。この美しい甲虫は、ブナの新芽に好んで集まる性質があるので、残雪の周りのブナの幼木を見回ってみた。
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Young tree of the Japanese beech
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
残雪が残る斜面はとても歩きにくくて閉口するが、やっとユキグニコルリが集まる幼木を見つけることができた。ユキグニコルリの♂は光沢のある深い青色でとても美しい。
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A male of Platycerus albisomni resting on the spout of Japanese beech
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
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Platycerus albisomni albisomni
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
メスは褐色で、オスに比べると体も小さい。
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Platycerus albisomni albisomni
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
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Platycerus albisomni albisomni
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
ネクイハムシ; Plateumaris
永幡さんによれば、月山の中腹に散在する沼や湿地には、ここを基産地として記載されたシラハタネクイハムシをはじめスゲハムシ、ヒラタネクイハムシの3種が棲息しているということだ。ネクイハムシの仲間は形態的にとても良く似ている。とくにシラハタネクイハムシとスゲハムシは触角の第2節、3節の長さの比で区別できるようだが、野外での同定はすこぶる難しい。
3者の同定には自信が無いので、間違っていたら是非とも指摘してほしい。
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Plateumaris shirahatai
Canon 7D, Sigma 24mm, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
シラハタは青色から茶色まで色彩は変化に富む。
(注:下の写真の上はスゲハムシです。永幡さん有難うございます)
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Plateumaris shirahatai
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
褐色型のシラハタの交尾。
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Plateumaris shirahatai
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
湿地に咲くコウリンカの黄色い花を訪れたスゲハムシ。
この個体は光沢のある鮮やかな赤色でとても綺麗だ。
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Plateumaris sericea
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
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Plateumaris sericea
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
もう一種はヒラタネクイハムシだが、それらしい個体を撮影していた。
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Donacia (Donaciomima) splendens splendens
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
オオハンミョウモドキ; Elaphrus japonicus
オオハンミョウモドキは湿地をゆっくりと歩くと足もとから這い出す。
鞘翅に並ぶ青い紋がなかなか渋くて美しい甲虫だが、動きが意外に素早くて落ち着きがない。
ゆっくりと撮影させてもらえないのが難点だ。
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Elaphrus japonicus
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
アマゴイルリトンボ; Platycnemis echigoana
アマゴイルリトンボはモノサシトンボの仲間だが、オスの体は青色を呈する。今年は出現が遅れているみたいで、個体数は非常に少なかった。青色が乏しい羽化後間もない個体を一応撮影できた。
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Platycnemis echigoana
Canon 7D, EF100mm Macro, ISO400 (2012-June-15, Mt. Gassan)
§ Afterword §
今回はある学会の山形県支部会学術集会にお招きいただきました。古い友人である県立病院のT先生や事務局のWさんなど色々な方にお世話になりました。感謝します。
また、山形在住の昆虫写真家でブナの森研究家の永幡嘉之さん(世界のブナの森)ともお会いして、食事を共にしながら(飲みながら)ゆっくりと話すことができました。彼のフィールドとする山形の昆虫や極東ロシアなどの話に興味津々でした。永幡さんも甲虫とくにカミキリムシにも少なからず興味があるようで、しばらくぶりでチョウばかりではなく、甲虫談議にも花を咲かすことが出来てとても楽しかったな。永幡氏のこれからの活躍に陰ながら応援したいと思う。
次回の Nature Diary は、マニアの間で朝日型と呼ばれているヒメシジミの画像をアップすることにする。
以上、 by 虫林花山
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hemlenk at 2012-06-19 05:44
山形出張、お疲れ様でした。
まだ、春が残っているのですね。
ブナ林には、いろいろな昆虫がいるのですね。アマゴイまで見られるとは。フジミドリはもう少し先でしょうか。一度、訪れたい所です(^_^)/
山形でしか見られない朝日型、楽しみです。
まだ、春が残っているのですね。
ブナ林には、いろいろな昆虫がいるのですね。アマゴイまで見られるとは。フジミドリはもう少し先でしょうか。一度、訪れたい所です(^_^)/
山形でしか見られない朝日型、楽しみです。
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kmkurobe
at 2012-06-19 18:49
x
うーんコルリクワガタいいですねぇー・・・・
甲虫が好きな方の絵ですねこれは・・・・・
昨年7月にご一緒した池の辺りもいるようなので、来年は挑戦してみたいですねぇ・・・・・ヤマギフと重なるころなんですね。
あの辺りもユキグニになるんですかねぇー。
甲虫が好きな方の絵ですねこれは・・・・・
昨年7月にご一緒した池の辺りもいるようなので、来年は挑戦してみたいですねぇ・・・・・ヤマギフと重なるころなんですね。
あの辺りもユキグニになるんですかねぇー。
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by
永幡嘉之
at 2012-06-19 20:04
x
何のご案内もできず失礼しました。私は週末も気仙沼で砂浜歩きに終始していました。ネクイはほぼその通りです。シラハタの2枚目、ヒメカイウの葉にとまっているやや青のきれいなもののみスゲハムシです(これだけ撮影場所が違いますよね・・・ヒメカイウの葉でわかります)。ヒラタもご撮影されてたのですね。アマゴイは月末には眼が真っ青になるでしょう。ヒメシジミも撮影されたとのこと、何よりでした。
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永幡嘉之
at 2012-06-19 20:06
x
それにしても、shirahataiと月山、いいですね! 私には思いつかない構図でした(真似したいけど、みんなから真似したと言われるのも悔しい)。これもここが基産地です。
心洗われる極上の風景と小さく美しい昆虫達、そして素晴らしい語らいの時・・・
最高の時間を過ごされて来ましたね。羨ましいです。
最高の時間を過ごされて来ましたね。羨ましいです。
コルリにネクイ、元・甲虫屋の私には、ぐっとくる虫林さんらしい素晴らしい画像ですね。ブナの新芽に、コルリ、えぇなぁ~
思わずコメントさせていただきました。
思わずコメントさせていただきました。
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by
Sippo5655 at 2012-06-20 22:06
山形へのご出張、お疲れ様でした。
月山 地域の方々にとっては、日々、癒しの光景でしょうか。
ブナの木って、本当にすごいんですね。
こんなクワガタがいるなんて、知りませんでした。
主人が甲虫好きなんですよ。
オオハンミョウ・・・「モドキ」ですか、
体に渋いサファイアをたくさん埋め込んでいるみたい!
月山 地域の方々にとっては、日々、癒しの光景でしょうか。
ブナの木って、本当にすごいんですね。
こんなクワガタがいるなんて、知りませんでした。
主人が甲虫好きなんですよ。
オオハンミョウ・・・「モドキ」ですか、
体に渋いサファイアをたくさん埋め込んでいるみたい!
kmkurobeさん、
そうですね、昨年語彙処した場所も大きなブナの木があって環境的にはコルリクワガタが観察できると思います。是非とも一緒に探してみましょう。ユキグニの分布の境界線に近いと思います。
そうですね、昨年語彙処した場所も大きなブナの木があって環境的にはコルリクワガタが観察できると思います。是非とも一緒に探してみましょう。ユキグニの分布の境界線に近いと思います。
Sippoさん、
ありがとうございます。
ご主人が甲虫がお好きなんですね。ユキグニコルリは♂の翅の色がそれこそコバルトブルーと表現できるとても美しいものです。ブナの新芽に集まることが知られていて、今回は気合いを入れて探してみました。
ありがとうございます。
ご主人が甲虫がお好きなんですね。ユキグニコルリは♂の翅の色がそれこそコバルトブルーと表現できるとても美しいものです。ブナの新芽に集まることが知られていて、今回は気合いを入れて探してみました。
by tyu-rinkazan
| 2012-06-19 00:08
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Comments(13)