その本の中に台湾での採集記があったと思う。詳しい内容は覚えていないが、捕里(プーリー)や阿里山などの地名が登場し、蛮族の住む場所での昆虫採集が胸を躍らせた。
そんな子供の時のトキメキが現実になった----------。
学会の後、急いでホテルのロビーに来て見ると、ソファに背の高い老人が座っていた。
恐る恐る声をかけてみるとまさしく侯新智先生だった。
今年の春に台湾を訪れた北海道のFieldさんにご紹介いただいた方だ。
侯先生は子供の頃に日本語教育を受けたといっていたが、それにしても日本語がすこぶる上手だ。会話が全て日本語で行えるのはとても有難い。挨拶もそこそこに、さっそく出かけることになった。すでに午後の1時を回っているので時間が無い。
台北から地下鉄とバスを乗り継いで安康という町に到着した。ここには安康生態蝶園という施設があるという。入り口で侯先生の友人でこの園の持ち主の呂輝壁さんが笑顔で迎えてくれた。侯先生の話では、呂さんは1年中、裸足でサンダル履きだということだ。

この自然観察園は呂さんが私財を投げ打ってつくったもので、森を切り開き、蝶の生態を身近に観察できるように色々な蝶の食樹などを植えている。初めは1人で黙々と整備していたらしいが、現在ではボランティアの若者達も集まっているようだ。
呂さんと侯先生に共通している点は、子供達に自然の面白さを教えたいと思って努力していることだ。
呂さんの説明を聞きながら園内を歩いていると、亜熱帯のチョウ達がその姿を現してくれた。
目の前に、ウスコモンアサギマダラとツマムラサキマダラが枝先で戯れるように飛んでいた。2匹ともお気に入りの枝先が同じ枝先のようで、静止する場所を争っているようだ。
。◆ウスコモンアサギマダラとツマムラサキマダラの飛翔◆

ツマムラサキマダラは羽ばたくたびに青い翅表の幻光がはためく、ウーム、これこそ夢にまでみた南国の輝きだ。そこで、翅表の幻光を捕らえるために飛翔写真をストロボを用いて撮影した。
。◆ツマムラサキマダラの飛翔◆

目の前の花にクロアゲハが訪れた。
ん!いつも見慣れているクロアゲハであるが、尾状突起が無いではないか。
オナシクロアゲハだ。
台湾産のクロアゲハは、通常無尾で、むしろ有尾なものは少ないらしい。
所変われば蝶も変わるということだ。
その後、アゲハチョウでは有尾型のナガサキアゲハやタイワンモンキアゲハ、シロオビアゲハなどを目撃したが、撮影できなかった。
。◆無尾クロアゲハ◆

派手なオレンジ色で、遠くからでもわかる蝶はカバマダラである。
マダラチョウの仲間は毒がある。メスアカムラサキの♀も色合いが似ているが、カバマダラを擬態しているのだろうか。なにしろ南国の蝶に疎い虫林には見る蝶が全て新鮮に感じるのだ。
。◆カバマダラ静止◆

タイワンクロボシシジミが吸蜜している。この蝶は何度か見かけたが、なかなか静止しないのでいらいらしてしまう。さらにやや暗いところにいることが多く、撮影するのが困難だった。
ゆっくりと歩いていると、見知らぬ花で吸蜜している個体が目に入った。さすがにこの蝶も吸蜜しているときにはおとなしくなり、ゆっくりと撮影させてくれた。
。◆タイワンクロボシシジミ◆

クロテンシロチョウは優雅に飛んでいるが、なかなか静止しないので大変だ。
晴れて明るければ、飛翔写真で翅表の黒点を撮影することができるが、すでに午後3時をまわっており、小雨交じりの曇り空で暗いのだ。
。◆クロテンシロチョウ◆

センダングサの花で待っていると、クロボシセセリやタイワンキマダラセセリも訪れてくれた。
両種とも台湾では普通に見られる蝶のようである。
クロボシセセリは地味な蝶であるが、虫林にはその紋が面白く感じた。

呂さんは種々の蝶の幼虫を親切に教えてくれた。ところが虫林は、幼虫よりも成虫の写真が撮りたいので、呂さんの説明を聞きながら幼虫の撮影をするものの、目は常に成虫を追いかけていた。
。◆蝶の幼虫色々◆。

この自然観察園の収入は錦鯉にあるみたいだ。結構な大きさの錦鯉が100元(日本円で300円)で販売していた。
トンボも多い。
綺麗な赤いチョウトンボと青い羽をもつカワトンボの1種がいたので、写真を撮った。
。◆赤いハグロトンボ?◆。

。◆青い羽を持ったカワトンボ◆。

すると突然強い雨が振り出し、瞬く間に土砂降り状態になった。
侯先生がタクシーを呼んでくれて、バス停まで行き、バスを乗り換え台北まで戻ったときはすでに午後6時をまわっていた。
侯先生のお陰で、本日は午後から出陣したにもかかわらず、20種以上の蝶が観察できた。
ただ、天気が悪く、暗かったので撮影は困難を極めた。明日からの胡蝶散歩に期待しながら本日は眠ろう。
謝々!
台湾胡蝶散歩3につづく--------------